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ロシア大統領選が行われ、プーチン氏が史上最高の得票率87%超の「圧勝」で通算5選を決め、「国民からの信頼に感謝する」と勝利を宣言した。
だが、これは欺瞞(ぎまん)に満ちた選挙である。
ウクライナ侵略に反対し、「反政権」「反戦」を訴えた立候補者が事前に排除されるなど、民主的な選挙の片鱗(へんりん)もみられない。
4年前に恣意(しい)的に改正された憲法の規定で、プーチン氏は今後最長で2期12年、83歳まで通算36年の統治が可能となる。ソ連時代のスターリンを上回る事実上の終身独裁である。
プーチン氏は「欧米が仕掛けた戦争から国を守る」と偽って支持を集めた。折しも18日はウクライナ南部・クリミア半島を一方的に併合してから10年である。国民の愛国心を煽(あお)り、侵略継続を正当化して欧米との対決姿勢を強めたいのだろう。
今回の選挙の不当性は実態をみれば明白だ。選挙スタッフが武装兵と一緒に家庭を回り、投票を強要したクリミアと東・南部4州の占領地での行動は典型である。ウクライナのゼレンスキー大統領が「選挙まがいの行為に正当性はない。彼らが恐れているのは唯一、正義だ」と反発したのは当然だ。
日本やウクライナ、米国、欧州連合(EU)など57カ国・地域は「非合法な大統領選の実施を最も強い言葉で非難する」との共同声明を発表した。林芳正官房長官は「(クリミアなどの)併合はウクライナの主権と領土一体性を侵害する明らかな国際法違反だ。これらの地域での大統領選実施も決して認められない」と非難した。西側諸国は欺瞞を糾弾し、ウクライナ支援の結束を強化すべきだ。
選挙結果とは裏腹に、なお「反プーチン」の機運が国内にあることも見逃せない。
刑務所で急死したプーチン氏の政敵、ナワリヌイ氏のユリア夫人は選挙前、投票最終日の正午を期した一斉抗議行動を支持者に呼びかけた。これに呼応して数十の都市で投票所に長い行列ができ、投票用紙にプーチン氏以外の名前を書くなど「反政権」の意思が示された。
いくら大統領選での「圧勝」を喧伝(けんでん)しようとしても、ウクライナ侵略など数々の暴挙をやめない限り、国内外の反発が収まらないことをプーチン氏は思い知るべきである。
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2024年3月19日付産経新聞【主張】を転載しています